年内に開業するか、1月に開業するか|開業日で変わる税金と手続き

「会社は12月末で辞める予定。どうせなら開業は年明けにしたほうが、税金の面で得なのでしょうか」——年末が近づくと、創業相談でとてもよくいただく質問です。

独立のタイミングが年末年始にかかると、「年内に開業するか、1月に開業するか」で迷う方は少なくありません。
開業日は1日違うだけで、初年度の申告の中身や、手続きの期限が変わります。
一方で、ネットで調べると「年内が得」「1月が得」と正反対の情報が並んでいて、かえって判断がつかなくなることもあります。

この記事では、開業日によって何が変わり、何が変わらないのかを、中小企業診断士の立場から整理します。
令和8年度の税制改正で変わった点も反映しています。
大分市で開業を準備している方が、自分にとっての判断軸を持てるようになることを目指しました。

なお、税金の扱いは一人ひとりの状況で変わります。
最終的な判断は、税務署や税理士にご確認ください。


目次

開業日は自分で決められる

まず前提として、個人事業の「開業日」は、事業を始めた日です。
開業届を提出した日ではありません。

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)は、事業を始めた日から1か月以内に、住所地を所轄する税務署へ提出します。
大分市にお住まいの方であれば大分税務署です。
提出方法や書き方は「大分市で開業届を出す方法|必要書類・書き方・提出先を解説」で詳しく解説しています。

開業日はある程度自分で決められますが、事業の実態と合っていることが前提です。
すでに仕事を受けて売上が立っているのに開業日だけ翌年にずらす、といったことはできません。
「最初の仕事を受けた日」「事業用の口座や契約を始めた日」など、実態に即した日を選んでください。


年内に開業する場合に知っておきたいこと

初年度は数か月分の所得で申告する

年の途中で開業した場合、その年の事業所得は開業日から12月31日までの分だけです。
11月に開業すれば、初年度はおよそ2か月分の売上と経費で申告することになります。

ここで見落としやすいのが、会社を辞めた年に開業するケースです。
その年は、退職までの給与所得と、開業後の事業所得を合算して確定申告をします。
開業直後は設備や準備の支出がかさみ、事業所得が赤字になることも珍しくありません。
事業所得の赤字は同じ年の給与所得と差し引きできる場合があり、給与から天引きされていた所得税の一部が戻ってくることがあります。

つまり、会社員として働いた年のうちに開業し、立ち上げの支出をその年に計上するという選択には、一定の意味があります。
ただし、赤字にするために不要な支出をするのは本末転倒です。
必要な支出の時期が年末年始にかかる場合に、判断材料のひとつとしてください。

青色申告の申請は「開業から2か月以内」

青色申告を選ぶと、最高65万円の青色申告特別控除や、赤字を翌年以降3年間繰り越せる制度などが使えます。
そのためには、事前に「所得税の青色申告承認申請書」を提出しておく必要があります。

提出期限は、その年の1月16日以後に開業した場合は、開業日から2か月以内です。

たとえば11月1日に開業すれば12月31日まで、12月1日に開業すれば翌年1月31日までが期限になります。
年末に開業すると期限が年明けにずれ込み、年末年始の慌ただしさの中で出し忘れる方がいます。
期限を過ぎると、その年は青色申告ができません。
開業届と同時に出してしまうのが確実です。

青色申告の仕組みそのものは「節税対策は起業時から!大分の個人事業主が知っておくべき青色申告の基本」をご覧ください。

40万円未満の設備は、その年の経費にできる

パソコンや事務机など、事業で使う設備は、原則として耐用年数に応じて何年かに分けて経費にします(減価償却)。

ただし青色申告をしている中小規模の事業者には、取得価額が一定額未満の資産を、事業に使い始めた年に全額経費にできる特例があります。
この上限が、令和8年度の税制改正で30万円未満から40万円未満に引き上げられました。
令和8年4月1日以後に取得して事業に使い始めた資産が対象で、年間の合計300万円までです。

ここで大事なのは、青色申告の承認を受けていることが条件だという点です。
年内に開業して設備をそろえても、その年の青色申告の申請が間に合っていなければこの特例は使えません。
年内開業を選ぶなら、青色申告の申請期限は必ず守ってください。


1月に開業する場合に知っておきたいこと

1年をまるごと初年度として使える

1月に開業すると、初年度が丸1年になります。
帳簿を1月1日から始められるため、年の途中で区切りが生じず、1年目の数字をそのまま翌年以降の比較に使えます。
「開業1年目の売上がいくらだったか」が素直に把握できるのは、事業計画を立てるうえで地味に便利です。

年末年始は取引先も休みに入り、動きが止まりがちです。
準備に集中できる期間として年末年始を使い、仕事が動き出す1月から開業するという考え方も合理的です。

1月15日までの開業なら、青色申告の申請は3月15日まで

青色申告の申請期限は、1月1日から1月15日までに開業した場合は、その年の3月15日までです。
1月16日以後の開業であれば、前述のとおり開業日から2か月以内になります。

1月上旬に開業すると、申請期限までに2か月以上の余裕があります。
とはいえ、確定申告の時期(2月中旬〜3月中旬)と重なって忙しくなる方も多いため、やはり開業届と同時の提出をおすすめします。


消費税とインボイスは「登録するかどうか」で考える

新しく開業した個人事業主は、消費税の納税義務を判定する基準となる期間(前々年)の売上がないため、原則として免税事業者からスタートできます(売上規模などによる例外はあります)。

判断が分かれるのは、インボイス発行事業者に登録するかどうかです。
取引先が法人など消費税の課税事業者中心で、インボイスを求められる場合は、登録を検討することになります。登録すると課税事業者となり、消費税の申告が必要になります。

このとき使える負担軽減策が、開業のタイミングで変わります。

開業時期登録した場合に使える主な特例
2026年内に開業2026年分は2割特例、2027・2028年分は3割特例
2027年1月に開業2027・2028年分は3割特例(2割特例は使えない)

売上にかかる消費税の2割(3割)を納税額とする仕組みで、2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終了し、その後は個人事業主に限って3割特例が設けられました。
3割特例には売上規模などの条件があります。

ただし、年内開業で2割特例を使えるのは、開業から年末までの短い期間の売上に限られます。
この差だけで開業日を決めるほどの違いにはなりにくいのが実際のところです。
インボイス登録の判断そのものは、姉妹サイトの「個人事業主のインボイス対応ガイド」で詳しく整理しています。


開業前にかかった費用は「開業費」にできる

開業日をいつにしても、開業前に使ったお金が無駄になるわけではありません。

開業の準備のために特別に支出した費用は「開業費」として扱えます。
たとえば、開業に向けた市場調査、名刺やチラシの作成、開業前の打ち合わせのための交通費などです。
開業費は繰延資産として計上し、好きな年に好きな金額を経費にできる(任意償却)のが特徴です。

利益が出始めた年に多めに経費にする、といった調整ができるため、開業日を無理に前後させなくても準備期間の支出は活かせます。
ただし、パソコンなどの設備は開業費ではなく、前述の減価償却の対象になります。
区別に迷うものは、税理士に確認しておくと安心です。


中小企業診断士としての結論:税金より「準備が整った日」

ここまで見てきたとおり、年内開業と1月開業には、それぞれ理由のある違いがあります。
ただ、創業支援の現場で多くの開業を見てきた立場から申し上げると、税金の損得だけで開業日を決めるのはおすすめしません。

多くの場合、開業日による税金の差は、事業そのものの成否に比べれば小さなものです。
それより大切なのは、次の3点です。

  • 資金繰り:開業直後は入金より支出が先に来ます。最初の入金がいつになるかを見込んだうえで開業日を決める(「創業時の資金繰り表の作り方」も参考になります)
  • 取引先の動き:最初の仕事がいつ始まるか。年度や予算の区切りに合わせて動く取引先も多い
  • 期限を落とさないこと:開業届は1か月以内、青色申告の申請は原則2か月以内。どちらを選んでも、ここを外すと損をする

つまり、準備が整った日を開業日にし、手続きの期限だけは確実に守る。
これがいちばん失敗の少ない考え方です。

個人事業主として始めるか、最初から法人にするかで迷っている方は、「個人事業主か法人か?大分での起業時に知っておくべきメリット・デメリット比較」もあわせてご覧ください。

ユナイテッドシェア大分では、運営者である中小企業診断士が、月額会員の方の経営相談を月2回まで無料でお受けしています。
開業日の判断は、資金繰りや取引先、補助金の時期とあわせて考えると迷いが減ります。
一人で決めきれないときは、ぜひ相談の場を使ってください。


よくある質問

Q1. 開業日は、開業届を出した日のことですか?
A. いいえ。開業日は事業を始めた日です。
開業届は、開業日から1か月以内に所轄の税務署へ提出します。
届出書には開業日を記入する欄がありますので、実態に即した日付を書いてください。

Q2. 会社を辞めた年に開業した場合、確定申告はどうなりますか?
A. 退職までの給与所得と、開業後の事業所得を合算して確定申告をします。
年の途中で退職した場合は年末調整を受けていないことが多いため、確定申告で精算することになります。
事業所得が赤字の場合、給与所得と差し引きできることがあります。

Q3. 青色申告の申請期限を過ぎてしまいました。どうなりますか?
A. その年は白色申告になります。
翌年から青色申告にしたい場合は、翌年の3月15日までに申請書を提出してください。
白色申告の年も帳簿をつける義務はありますので、記録は続けておきましょう。

Q4. 開業前に買ったパソコンは経費になりますか?
A. パソコンは開業費ではなく減価償却資産として、事業に使い始めた年から経費にします。
青色申告の承認を受けていれば、令和8年4月1日以後に取得した40万円未満のものは使い始めた年に一括で経費にできる特例があります。

Q5. インボイスには登録したほうがいいですか?
A. 取引先が法人などの課税事業者中心で、インボイスを求められるなら検討が必要です。
一方、一般のお客様向けの事業であれば、登録しない選択もあり得ます。
事業の相手によって答えが変わるため、開業前に取引先の状況を確認しておきましょう。


まとめ

年内に開業するか1月に開業するかで変わるのは、初年度の所得の範囲、青色申告の申請期限、設備を経費にするタイミング、インボイスの特例です。
とくに会社員として働いた年に開業する場合は、事業の赤字を給与と差し引きできる点が年内開業を選ぶ理由になることがあります。

一方で、開業前の支出は開業費として活かせるため、税金のために開業日を無理にずらす必要はありません。
準備が整った日を開業日にし、開業届と青色申告の申請期限だけは確実に守る。これが基本です。

判断に迷ったら、一人で抱え込まずに相談できる相手を持ってください。
開業の準備は、決めることの連続です。


「ユナイテッドシェア大分」運営スタッフは中小企業診断士です。
シェアオフィスの利用はもちろん、創業・経営に関するご相談もお気軽にどうぞ。
まずはお気軽にお問い合わせください。


運営:合同会社白眉コンサルティング 代表 堀 寿弘(中小企業診断士・応用情報技術者)
※ 本記事は2026年10月時点の制度にもとづく一般的な情報です。
個別の税務判断は、税務署または税理士にご確認ください。

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この記事を書いた人

堀 寿弘(中小企業診断士・応用情報技術者)のアバター 堀 寿弘(中小企業診断士・応用情報技術者) 合同会社白眉コンサルティング代表社員(中小企業診断士・応用情報技術者)

堀 寿弘(ほり としひろ)
合同会社白眉コンサルティング代表/中小企業診断士・応用情報技術者。経済産業省認定 経営革新等支援機関。

大分駅前のシェアオフィス「ユナイテッドシェア大分」を運営。
のべ1,500件超の相談実績を活かし、大分の創業者・小規模事業者を伴走支援しています。
「正解を押し付ける」のではなく、あなた自身が答えに辿り着くお手伝いをしています。
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